「やめたいこと」は「やりたいこと」なんだ

そうだったよね。

景子ちゃんの気持ちが僕もわかるんだよ。僕もやりたいことなんか全然ない子供時代だったから。何もしたいと思ってなかったね。ずっとゴロゴロしてたいと思っとった。僕は三重県鈴鹿市の神戸高校という名もなき高校に行ったんだ。なんでその高校行ったのって言ったらやりたいことがなかったっていうのが一つと、鈴鹿市の公立高校では頭がいい高校だったから。
そこに行っとけばすごいって言われるっていう他者評価が欲しくて行って。

何で美術大学行ったかって言うとたまたま神辺高校が進学校でみんなが進学するということに対して「あぁそうか」と思って。

でもやりたいことがないから消去法で美術大学に行って。今思えばやりたくてやってることって何ひとつなかったなぁと思って。

だから沖縄に行きたいのも何もしたくないからだよね。のんびりしたいんだよね。どんな生活がしたいのかって言ったら、おじいちゃんとおばあちゃんみたいな暮らしがしたいって言うか。散歩したりコーヒー飲んだりそういう感じ。だからけいこちゃんのやりたいことが見つからなかったって気持ちは自分でも理解できて。

人間の欲求って二つあるって聞いたことがあって。1つは「快楽欲求」と、もう1つは「痛みを避ける」っていう、その二つらしいのね。僕は何もやりたくないという快楽の方の欲求だと思うのね。痛みを避けるって言うのは恐怖を逃れるっていううやつやからさ。だからすごく馬力があるというよりは馬力が何にもなく炭のように燃えてたい感じだよね。消えとると思ったら灯いてて。

そう。それはもう間違いないね。だから「やめたらええやん」っていうのは、やりたい方に向かっていく努力はやらなあかんけど、未来が見えないやりたくないこととか、やっとる意味あんのかなみたいな。だから僕の努力はどこに向かっとるかって言ったら何にもしなくてもいいように努力をしとるんであって、何もしたくないから何もやってないって言うのだと死んでしまうから。そうじゃなくて何もしなくていいように頑張ってきたよってことだよね。

そう。だから僕の中では「やりたい」も「やめたい」も「Want」だから、欲求だから一緒で、「やめたい」は消去法ではなくて辞めたいというやりたいなんだって。お皿を洗いたくないとすればさ、座ってたいになるわけやんか。っていうさ、一緒の事だと思うんだよ。「やりたい」も「やめたい」も。

規則正しい生活しろとか、目覚ましで起きて会社行くのが当たり前だとそういう社会だけどそれは社会がそう思ってるだけだからさ。だから目覚ましで起きたくないと思うんだったら目覚ましで起きなくするためにはどうすればいいんだろうって考えるとこに快適な未来があるわけで。何も考えずに起きたくないけどそれで起きないと仕事に間に合わないとか、それをやらないとなんともならないと思って。我慢するんじゃなくてさ、どうすれば目覚ましで起きない生活が送れるんだろうと考えたらさ、アイディアっていっぱいあるじゃん。自分で自営業しようとか早く起きなくてもいい仕事に就こうとか。どれかをチョイスしてトライ&エラーを繰り返すだけで。だから僕はより快適になるための決断と行動をどんだけしていくかだと思うんだよね。

大学の時はたまたま消去法で美術大学に行って、育英会と大学から奨学金を借りて行ってたから奨学金を返済していかないとだめだよね。当時僕は卒業したらサラリーマンになるという認識しかなかったから、そうするとデザイン事務所に就職してデザイナーとしてやってくか。もしくは当時陶芸大好きだったから陶芸家として生きていくかっていうこの二択の時にどう考えたかって言うと陶芸家は芽が出るまでに時間かかると言われて。デザイナーにもいっぱいあるって知って。サンマ一匹100円って書く
広告チラシのデザイナーもいればデザイナーもいろいろだなぁと思って。迷ってる時にたまたまネットワークビジネスの話が来たから権利収入っていう仕組みが世の中にはあるんかと思って。それで学生時代にやったのが就職せずに済んだ。当時は学生でも大丈夫だったからね。

大事なことはネットワークビジネスの話が来たかどうかではなくて、僕はそういう風に暮らしがしたいっていうのもその頃から描いてたから。そう言うのがなかったらさ、ただこんなもん駄目だとか表面的なことしか見なかったと思うんだけど。いろんな陶芸家の先生のアトリエに遊びに行かせてもらって最高やなっていうのをイメージできたんだよね。色んな先生のとこ行っとったからこそそういう話が来た時に「これならいける」って気付くことができたけど、ほとんどの人が何も考えてないと思うね。

僕は昭和49年生まれで今46歳なんだけど僕の親父っていうのは何してもいいぞっていうふうに僕の事言ってくれてたのね。だから小学校も中学校も高校も勉強しろって言われたことが一回もないって確実に言える。

僕の友達は行きたいとか行きたくないじゃなくて自動的に塾に入れさせられる。僕は勉強しろって言われたことないしこんな時間までどこ行っとったって言われたこともないし。今日は泊まって帰るって言わずに友達の家で麻雀して次の日帰っても昨日どこ行っとったって言われたこともないの。やっぱり信頼されてたイコール自分がどうしたいのかを自分で考えて決めて行かなきゃあかん人生だった訳だよね。

自ら考えて自ら決めないとダメだったってこと。だけど他の友達なんかは当たり前のように勉強しろって言われとったりさ。当たり前のように国立大学行けって言われとったし。当たり前のように結婚してとか、いつになったら結婚するんだとか親からの指示とかがあるわけじゃんか。だけど僕は何も言われなかったという見方もできれば、何も言ってもらえなかったとも取れるよね。

自分が何をしたいのかわからなかったし、やっぱりいつも自分と向き合ってたよね。やりたくないことをやる人生の方が僕は嫌だからそこは勇気ではないと言うか。やらない選択の方が勇気がいると言うか。このままの方がずっと嫌だという考え方だから。僕が言うトライ&エラーっていうのは勇気ではなくて、どれをやればそこに進むのかっていうのを見つけて行く作業でしかないと思うんだよね。